大阪商業大学
公共学部教授 桑島 紳二

University

#01

コロナで変わった学生たちの学び。
リモートだから実現した、
学生たちとの新たな「つながり」。

――今回のコロナウィルス感染症の流行を受けて、学生の学びはどうなりましたか

地球上で生きている人類の誰一人として経験したことのない危機が地球を覆い、日常が非常時になっている。もちろん大学教育も危機的状況で、それをなんとか乗り越えようと、覚悟を決める間もなく突っ走ってきました。それで手探り状態でやっていると、コロナ禍以前にはなかった新たな可能性も浮かび上がってきた。どの大学教員も同じように感じていると思いますが。

私が担当している教養系の科目「芸術と人間」では、「20世紀のアートと音楽」というテーマで、ジャズやポップスという大衆音楽通して、芸術文化と産業との関係を理解する、という授業を行っています。履修者が200名ほどのいわゆる座学です。

ジャズはご存知のように音と音との対話しながらその場で音楽を奏でる、その様をライブで味わうのがジャズ醍醐味です。しかし、そんなことを言ったところでわかりませんので、プロの演奏家を招いて実際にライブ演奏を授業で行っていました。しかしコロナ禍でそれもできなくなりました。

――コロナになってどう変わりましたか

講義はオンデマンド型で行うことになりました。いくらコロナ禍とはいえ授業の質は確保したいので、YouTuberをお手本に、動画コンテンツを丁寧に作りました。受講生の顔を見ながら臨機応変に話をすすめることができる。そのライブ感が対面授業の醍醐味ですが、遠隔授業となるとそうはいきません。わかりやすく、かつ、くどくならないよう考えて作成しました。
ジャズはYouTubeに有名な演奏がたくさんアップされているので、教材にそのURLを貼って「こういうアーティストがこういう演奏をしました。聞いてみましょう」ということもしました。使えるものはなんでも使うという発想です。引用元をネットにすることで、自分の興味関心に応じて発展させていくこともできますからね。

――確かに直感的だし、関心に応じて繰り返し聞くこともできますね

細かいところでは「シンコペーションというのはこういうことで、シンコペーションを取ってしまうとこうなって」みたいなことにも言及します。これも実際に音を聞いてもらわなければいけません。対面授業ではその場で適当にデモンストレーションしてましたが、遠隔授業でも理解できるように音楽作成ソフト「GarageBand」で作りました。そのほかにもいろいろなソフトを使うようになり、YouTuberのまねごとぐらいはできるスキルは身についたと思います。

配信したあとは、学生からフィードバックが欲しくて「質問コーナー」とか「感想コーナー」を掲示板でつくりました。学生の問いかけに対しては、できるだけ丁寧にレスポンスを返しました。そうすると、だんだん書き込む学生が増えて、キャッチーボールが頻繁になっていきました。

履修者100人のなかの20〜30人とやりとりしたら、ヘトヘトになってしまって。でも授業を15回やって最後に学生たちから「先生お疲れ様でした」とメッセージが来ました。これまでの講義形式の授業だったら、そういうつながりはできないです。

――課題についてはいかがでしたか

オンラインになって、どの大学でも課題への取り組みを重視するようになりました。通常の科目は修了すると2単位与えられます。その内訳は授業で1単位、予習復習で1単位です。本来は受講と自習がセットになっているということですね。遠隔授業になると、どうしても伝えることのできる情報量に限度がありますから、要点はこういうことだけど、あとは自分で勉強して補うという。そういう意味で、大学における授業のあるべき姿に近づいたと思っています。オンライン授業がはじまって学生たちは課題の多さに悲鳴をあげていました。けど、それを体験して、能動的に学ぶことに目覚めた学生も少なくないと思います。

――報道は学生に同情する立場の内容が多かったように思います。また「リモートによる授業よりも対面の方が優れている」という前提の書き方が目立ちました

もっと現場を取材してほしいですね。大学で学びの基本は「自学自習」だと思っています。自分の専門分野を極めていくことで「自学自習の技法」をきっちり身につける、大学教育は実はそれが重要なんです。先ほどの単位の話のように、大学は一から十まで知識を詰め込むところではない。「授業ではここまで。あとは自分で調べたり考えたりして」と。
課題に追われることで、ストレスを感じた学生もいたのだろうけれど、達成感とともに「やればできる」的な自己効力感を得た学生も少なくない。そういった部分をちゃんと深掘りして報道してほしい。

動画コンテンツを作って思ったことがあります。受講生はスマホやパソコンを通じてひとりで視聴するでしょうから、こちらとしてはパソコンの画面の向こうにあるひとりの受講生に語りかけるように話をします。講義では「1対他数」ですが、この場合、擬似的ではありますが「1対1」。大勢に向けて話しているのではなく、画面の向こうにいるあなたひとりに語りかけている感じ。これに、質問や感想を通じて受講生と教員とのオンラインを通じてのやりとりが加われば、1対1的の関係性ができる。多数相手だとしゃべるという感じですが、ひとりだと語りかけるという感じですね。そっちのほうがより伝わりやすいと感じています。また、大講義であれば質問することをためらう学生でも、オンライン授業なら敷居が低くなるようです。これはオンラインだからこそ生まれた新しい授業スタイルだと私は思います。


(2020年10月上旬収録。「#2『ニュースを見るようになった』『本を読むようになった』と振り返る学生たち。」へ続く)

Profileプロフィール
大阪商業大学
公共学部教授
桑島 紳二
関西大学社会学部(マスコミュニケーション専攻)1978年卒業、
兵庫教育大学大学院 2013年修了。
専門分野は芸術社会学、キャリア教育。
カメラマン、広告制作会社プロデューサーとなり、その後、神戸学院大学教授(芸術文化領域)を経て、現職。
NPO法人淡路大磯アート山を創る会理事。
趣味は打楽器による即興演奏(ジャズ)。
Profileプロフィール
大阪商業大学
公共学部教授
桑島 紳二
関西大学社会学部(マスコミュニケーション専攻)1978年卒業、
兵庫教育大学大学院 2013年修了。
専門分野は芸術社会学、キャリア教育。
カメラマン、広告制作会社プロデューサーとなり、その後、神戸学院大学教授(芸術文化領域)を経て、現職。
NPO法人淡路大磯アート山を創る会理事。
趣味は打楽器による即興演奏(ジャズ)。

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