コロナ禍での修学支援
「対面希望」「通学が不安」。2分した
学生に超小規模大学はどう対応したか
――2020度は学生たちはコロナ禍での修学となりましたが、いかがでしたか
本学は、現代人間学部1学部のとても小さな大学で、「超小人数(ちょうこにんずう)大学」と称することもあります。学長をはじめすべての教職員が学生一人ひとりの顔と名前を覚え、声をかけて挨拶し合います。
2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発令され、本学でもオンラインによる授業を手探りでスタートさせました。当初はメールを主な連絡手段をとして使っていたため、学生も教員もメールの多さに悩まされました。学生からは「メールが怖い」という声も上がりましたが、それは教員もよくわかりました。ひとつの授業で、学生とメールを2〜3通を交わしたとして、30人の受講者がいてそれが1週間に5・6コマありますから。それが少し緩和されたのは、オンラインでの授業管理システムが導入されてからです。
やがて7月になり、私は学生部長をしていましたので、学生の声をしっかり聞きたいと思いました。ただ、メールの多さに悩まされている学生たちにアンケートをメールで依頼していいものか、まずそこで悩みましたが、やはり学生の状態を正確に把握すべきだろうと2020年の7月と2021年2月にアンケート調査を行いました。
――アンケート結果の前に、コロナ禍での授業の実際についてお聞かせください
私は心理こども学科で「初等音楽」「初等音楽科指導法」「保育内容の研究・表現(音楽表現)」を担当しており、幼稚園教諭や保育士を目指す学生にピアノなどの実技を指導しています。リモートでの授業は、実際にはじめてみると想像以上に大変でした。
まず自宅での修学環境ですが、ピアノが自宅にない学生がいますし、あっても家族が生活をともにしている居間などにあると、思うように授業に参加できません。また、そもそもパソコンを家族で共用している場合もあります。本学は小規模ということもあり、希望する学生全員に簡易ピアノもパソコンも貸し出すことができました。
――器楽など実技の指導はいかがでしたか
幼稚園、保育所では、朝の挨拶から「帰りの会」まで歌とともに過ごし、集合のときや行動を促す合図にも、音楽を使います。そして、表現活動としての日々の歌やリズム遊びはもちろん、音楽会、生活発表会のための大きな合奏や音楽劇もあります。そのために指導者は、わらべ歌、唱歌、童謡などに限らず、様々なジャンルの膨大な曲の中から目的に合った曲を選択し、演奏することが求められます。その基礎的な技術となる、ピアノを弾きながら歌う実技の指導を行う授業を例にお話しします。
オンライン始動時に私が「手元を映して」「顔を映して」と学生に指示を出します。学生は、こちらの指示に合わせてカメラの設置場所や角度の調整をしなければなりませんが、そう簡単にはいきません。演奏動画の提出の課題もありましたが「肝心なところが映ってない」ということもありました。
またオンラインだと合奏や合唱などはできません。コンマ数秒の時間差が出てしまうので。ですから私が先にピアノを弾いて録音したものを学生に送り、学生たちはスマートフォンでそれを再生しながら連弾したり歌ったりして、それをパソコンのカメラで映してもらって、「再生できる?同時録音できる?動画提出できる?」と一人ひとりに何度も問いかけながら授業を進めました。
そういった困難は数え切れないほどありますが、それでも学生たちは飲み込みが早く、いろいろな方法を習得していきました。私が学生から教わることも日常茶飯事でした。「先生がわかっていると思わないでね、先生も初めてだから。一緒に頑張らせてね」と伝えました。オンライン授業は、学生とともに模索し、一緒に作り上げた感が強いです。
――相当なご苦労があったと思います
それでも、コロナ禍以前に対面でやっていた指導は、何とかできていると思います。これは本学の方針なのですが、演奏などの技術が基準に達しない学生には単位を出すことはできません。弾けないと現場に出てから困りますから、そのような場合は再度履修させる方が学生のためになりますよね。
で、本人が努力する姿勢があれば「付き合いますから弾けるまで一緒にがんばりましょう」と言って、履修者が2〜3人でもクラスを開講します。「この程度弾ければまあいいだろう」とこちらが妥協して単位を出せば済みます。でもそれでは本人のためにならないのです。
これも「超小人数(ちょうこにんずう)」だからできる指導だと思います。
――学生アンケートの結果はいかがでしたか
アンケートでは、オンライン授業に関することのほか、コロナウイルス感染拡大による家庭環境の変化や、支援が必要となった場合の相談先の有無などについて聞きました。学生の声をできるだけ聞きたかったので「オンライン授業で気になること、困っていること」「今、学生生活について望んでいること、やってみたいこと」「家庭環境の変化はありましたか」などのテーマで自由記述の欄を設けたところ、多くの書き込みがあり、学生一人ひとりの考えや希望が異なっていることがよくわかりました。たとえば、学生は対面授業とオンラインの授業では、どちらを望んでいたか。以下の集計によると、コロナウイルスに対する気持ちとして7割以上が「少し怖いが、通常の生活を送りたい」と回答しています。さらに「『楽しいと感じた』『気分が沈んだ』時期はいつですか?」という質問には、対面授業が再開された9月に、両方の回答が最もたくさん集まりました。つまり、オンラインを望む声と対面を望む声が、完全に二分されていることがわかります。
――そのなかで、具体的にどのような取り組みをされたのでしょうか
まず1年次生を心配していました。というのも、入学後に、友人をつくれていないのです。入学式の式典はなく教室での学長メッセージのみ、キャンパスにはオリエンテーションで2日程度通ったのちに、そのままオンラインによる授業になりましたから。
1年次生に「あなたも神戸海星の学生だよ」と実感してもらうメッセージを発信するなかで、大学祭運営員会の学生たちから「毎年10月に行われる大学祭をそのきっかけにしよう」という声が上がりました。
(2021年4月末取材/「#02_オンライン授業が中心になってもひとりを大切にする伝統を学生たちへ」に続く)