コロナ禍での修学支援
オンライン授業が中心になっても
ひとりを大切にする伝統を学生たちへ
――アンケートに書かれた声に、大学としてはどのような取り組みをしたのでしょうか
まず1年次生を心配していました。というのも、入学後に、友人をつくれていないのです。入学式の式典はなく教室での学長メッセージのみ、キャンパスにはオリエンテーションで2日程度通ったのちに、そのままオンラインによる授業になりましたから。
そこで1年次生たちに何か発信できないかと考え、各クラブに依頼してクラブ紹介動画をつくってもらってYouTubeにアップしました。1年次生全員に案内することで「クラブって楽しいよ」「これが学生生活だよ」とメッセージし、キャンパスに来なくても「大学とつながってるよ」「あなたも神戸海星の学生だよ」と実感してほしいと思いました。そして、何かあったら電話してね、メールちょうだいね、と声をかけていきました。
大学祭運営委員会もオンラインで活動を続けるなかで、1年次生が友だちをつくる機会をできるだけ提供したい、毎年10月に行われる大学祭をそのきっかけにできれば、という声が上がりました。
大学祭運営委員会で話し合を何度も持ちましたが・・・意見がまとまらないんですね。かつて経験したことのない状況下ですから。
そのうち学生から「オンラインによる大学祭ができないか」というアイデアが出てきました。それなら、謎解きのルームを設けて訪問者にクイズを出してクリアしていく形式はどうかとか、友だちと「この答えわかる?」って相談しながらゼミの仲間とまわってもらうとか、クイズの内容は神戸海星にまつわることだったり、学科やゼミの専門に関するものだったりすると大学祭らしいとか、アイデアがどんどん広がっていきました。
――当日の運営はいかがでしたか
学内にメインの会場となる教室を設けました。そこにパソコン18台をずらっと並べて、撮影用のテレビカメラも入れて、参加者には学外からアクセスしてもらいました。撮影は外部業者に依頼しましたが、ほとんどの企画・運営は学生が自ら実施しました。
1年次生の参加は80%程度だったでしょうか。オンライン上に設けた部屋(Zoom)に参加者が入ると大学祭運営員会のメンバーが待っていて「こんにちはー、じゃ問題出すよー」と声をかけていきました。さまざまなクイズや仕掛けがあって、運営側も参加者も楽しい大会になりました。オンライン大学祭の最後には100人以上が参加するビンゴ大会が開催され、例年と変わらないくらい盛り上がりました。
感染防止対策を取りながら、未知の分野へ挑戦したわけですから、手間と時間がかかりとても大変でしたが、終わってみれば開催してよかったと思います。学生のためになることがひとつでもあればいいし、学生たちは「できた」という自信をもてます。在学生が1年次生を想う気持ちからスタートし、とても意義深い大学祭になりました。
――大学祭などの行事は中止した学校がほとんどだったようです
コロナウイルスの感染状況は刻々と変化しますし、感染防止の取り組みも考え方も時期ごとに変わります。今もそうです。大学祭は開催しましたが、12月のクリスマスキャロルは中止となりました。それでも単に中止にすることはしないで「何か形に残そう」ということで、学生にお菓子と一緒にクリスマスカードを配りました。カードの裏には「(一緒に)クリスマスをお祝いしましょう」いう神父様からのメッセージと音楽部の動画のQRコードを記載しました。
本学は、キリスト教の精神にもとづく温かいコミュニティ(共同体)。大きなことはなかなかできないけれど、小さくても笑顔をともにできる瞬間を大切にしています。
――学生アンケートの本当の成果は何だったのでしょうか
本学は学生にとって、教員だけでなく学生課や教務課などの職員による複数の見守りがあり、学生が誰にでも相談できる大学です。
それがコロナ禍によって直接相談することが難しい状況になりましたので、アンケートで学生の状況を掴みたいと思いました。ですからアンケートは実態調査ではなく「困ったことを相談できる人(家族・友人)はいますか」「今、個人的に支援してもらいたいことがありますか」などの質問が中心になりました。
学生課ではアンケートの結果を一覧表にして、心配事があるすべての学生に「大丈夫ですか?」と電話を入れました。何らかの困難に陥っても、自ら「しんどい」「困っている」と学生が自ら発信できれば、私たちは手を差し伸べることができます。しかし、それができない学生もいます。実は、学生課から学生へ電話などで声をかけることは、コロナウイルスが感染拡大する以前から本学では日常のものでした。「大学生にそこまでする必要があるか」という疑問の声もあるかもしれません。もちろん大学生ですから、あくまで本人の自覚や主体性を優先します。ですが、学生は一人ひとり異なりますから、できるだけアプローチをしていく必要があり、何度か電話を入れるうちに心を開き「先生、じつは困ってんねん」と打ち明けてくれる場合もあります。
アンケートを通して、困っているかもしれない学生に声をかけ、把握できたのが何よりよかった。とはいえ、この方法でも救いきれない学生がいます。コロナ禍に限りませんが、学生支援にゴールはないと思います。
――感染の状況が変わっても、学生の見守りは変わらない、ということですね
どの大学であろうと知識は得ることができます。そして、それだけを求めるならどの大学でもよいと思います。
本学のよさは、人間的なつながりをもち、精神的なバックアップをしながら一人ひとりの人格的素養を高めることを大切にしている点です。それは対面の方がやりやすい。でもリモートが中心になっても「神戸海星らしさ」、つまり教職員の間で伝統的に受け継がれている見守りの手厚さや、精神的に「ほったらかしにしない」という姿勢は、変わりません。「コロナだからできません」ではなく、どんな状況でも「絶対にできる」と信じて工夫していけば、新しいやり方で実現できるはずです。
2021年度の就職状況については、心理こども学科の卒業生は例年通りでしたが、英語観光学科は観光系の企業への就職希望者が多くを占めますので苦戦しました。とはいえ、学生一人ひとりに就職指導をすることもあり、世間の景気の波に左右されることはほとんどなく、就職率は100%近いです。3月末の時点で決まっていない学生は2人でしたが、引き続き学生に寄り添い就職指導を続けています。
本学ははじめにお話しした通り、学生一人ひとりの顔と名前を教職員が覚え、見守りますが、同時に就職先や出身高校も自然とインプットされます。卒業後もつながった関係は続きます。
それらは、コロナウイルスの感染拡大で社会や生活様式が新しい常態になったとしても、変わるものではないと思っています。
(2021年4月末取材)