保護者の年齢層が、大学での学修を経験している世代になっています。保護者とのコミュニケーションに変化はありますか。
高橋:保護者の方々も大学受験は経験されていますが、今の入試は当時よりも多様化しています。具体的には、保護者も「入試の仕組み」について勉強したいと。
子どもの将来に対する学校への期待は年々歳々高まっており、それが「入試制度についていろいろなことを知りたい」という気持ちに表れているようで、
これから進路指導部でもそういった保護者の勉強会などを企画していくことになると思います。
おそらく20〜30年前は、親は子どもの行きたい学部などは「学校の先生と相談しなさい」と本人任せで終わっていたことが多かった。
今日では、それがいいか悪いかはわかりませんが、保護者が相当子どもの人生に関わってきていることが大きな変化だと感じます。
また、保護者のニーズも多様化しており、その点では課題は多いです。
2022年から「探究型学習」が本格的にスタートします。進学校としてどう組み込んでいきますか。
高橋:今プロジェクトチームで来年4月の導入に向けて準備をしているところです。
久我山らしい探究授業をどうやってスタートできるか。実は、久我山では教科をまたぐ総合的な探究学習はもうすでにいろいろやっているんです。
例えば中学1年では久我山の歴史や文学に触れる「地域探訪」という実地学習があり、これはもう20年以上やっていますが、国語科・社会科に加えて一時は理科も入っていた総合学習のプログラムです。
久我山エリアは歴史の面影が豊かな街ですから、それを活かさない手はありません。
たとえば本校の北には玉川上水が流れていますが、太宰治が飛び込んだときに下駄が引っかかっていた場所がすぐそこです。
南側の寺町のなかには、浮世絵で知られる喜多川歌麿の墓があります。歌麿の浮世絵はジャポニスムとしてヨーロッパの芸術家に大きな影響を与えました。身近なところからヨーロッパとつながることができる。学びのきっかけが豊富な環境なんです。
生徒が探究する対象として興味を抱いたら、なぜだろうなぜだろう、どんどん自分で掘り下げていく。
なぜがひとつ解決するとまた次のなぜが出てくる。
その繰り返しが探究の本質だと思います。
尽きない、終わりがない、そういうきっかけを中学1年で得られるようにしています。
その後は、自然体験教室も修学旅行に向けての学びも探究の機会になるでしょうし、あらゆるところに探究のネタは転がっています。
そういったさまざまなプログラムや行事を拾い上げて体系的に再構築をしている段階です。
あとは生徒がアウトプットする機会をどれだけ提供できるか、です。
さらに、女子部のCCクラスにはグローバルスタディーズという本校独自の授業があり、そこではさまざまな課題に取り組みながら、世界にある多様性に気づき、世界の人と協働する気持ちを育てています。
まさに探究学習そのものですので、これを全学的に広げていけるかというところで考えています。
最後に読者の方々にメッセージをお願いします。
緒方:私自身、高校生のころ自分の将来や進路に悩みました。あるときに何かしら悩んでいる子どもたちの役にたちたいと思い、それが私が教員になった原点です。
誰もがいいものを持って生まれてきますが、自己実現は簡単にはできません。
学生時代には良いことも悪いこともあり、いろんな場面を経てひとつひとつのことが肥やしになって自己実現があると思います。
本校では「きちんと青春」というキャッチフレーズがありますが、友だちと切磋琢磨して悩み苦しみ、同じ釜の飯を食って学んでいくことで自己実現できるような、そんな環境でありたいと思います。
私のところにも卒業生がよく帰ってきてくれるのですが、
教師とは、生徒たちと喜怒哀楽をともにできる、本当に幸せな職業だと思います。
高橋:体力的にも精神的にもタフでなければいけない時代になってきていると思います。
生徒を見ていると、泥だらけになっても、傷だらけになっても、その姿にやさしさと、強さと、美しさがひとつのものとして感じられる瞬間があります。
現代社会では一人では生きていけませんから、そういった
やさしさ、強さ、美しさを備えた人間になってほしいです。
また、今の自分を否定しないで、いい意味で今を楽しんでほしい。
私は社会を担当してますが「歴史を学べ、今を楽しめ、未来を創れ」と生徒たちに語りかけています。
かつて高度成長期では、学校においては、同じような規格の生徒を育てることが役割としてありました。
今はそういう時代ではありません。
どれだけ自分の人生を大切にして、同時に他人の幸せを考えられるか。
多様であることを踏まえて、皆バラバラでそれぞれ違うけれども一緒になって生活していく。
自分の幸せと他人の幸せをどう実現していくかを思い悩み苦しんでいくわけですよね。
だから多様性は素晴らしいけれど苦しい部分もあります。
生徒たちには自分たちの価値観、若い人たちの価値観で未来をつくってほしいです。
そのためにも過去から学び、今を楽しんでほしい、と心から思うのです。
本日はありがとうございました。