コロナウイルス感染拡大は一応の区切りとなった感がありますが、まだまだ予断を許しません。
貴校は難関国公私大に毎年多くの合格者を出している進学校であり、また「文武両道」を旨とする伝統校でもあります。まもなく創立80周年となりますが、「久我山らしさ」とは何でしょうか?
高橋:創設当時から受け継がれている「学園三箴」のもとで、「頭の力、体の力、心の力」を鍛え、明るくさわやかにたくましく。それが男子校時代から続く本校らしさになっています。
また國學院大學の付属校として、多様で豊かな日本の文化や歴史の特徴と本質をしっかり学んで発信していくことのできる力を養うことをめざしています。とくに文化は自然との関わりの中から生まれていることから、自然への畏敬の念を育てることも重視しています。
具体的には中学1・2年では「心の教育」ということで男女別学の特徴を生かしながら、男子は能楽などを日本文化を体験し、女子は華道、茶道、日本舞踊などを学ぶ女子特別講座を通して、豊かな心を育みます。
また中学校では「自然体験教室」として中1・中2・中3各学年で、自然の厳しさや美しさに触れながら仲間との絆を深め、人々に感謝する心を養うプログラムがあります。
國學院大學の付属校ですが、進学実績はどうなっていますか。
高橋:2021(令和3)年度は、卒業生435名の約半数が国公立・早慶上理・GMARCHに進学するなか、國學院大學への推薦入学者数は36名でした。附属ですので優先入学枠がありますが、かつては附属・系列の3校、國學院高校、國學院栃木、そして本校久我山がテストの結果で枠数を競っていた時期もありました。当時は6〜7割が國學院大学に進学し、希望しても進学できない生徒もいました。一方、理系生徒の指導にも力を入れ、実績を出すようになりました。
2008年から中学校に最難関国公立大学へ現役合格をめざす「STクラス」が発足し、学習に軸足を置く進学校としての立ち位置が明確になり、今日に至っています。
「文武両道」については、他校では「実際は文武分担」といわれることも多いようですが、実際はいかがですか。
緒方:男子部では武道が必修で、剣道または柔道を選択します。中学3年と高校2年で、1週間の寒稽古が課せられ、それが今日まで伝統として受け継がれています。
クラブ活動ではラグビー部、陸上競技部、硬式野球部、サッカー部、バスケットボール部などが全国大会を経験していますが、いずれのクラブでも勉強を疎かにすることは認めておらず、勉強の成績が振るわなければ部の指導者からも厳しく指摘が入ります。
スポーツ系の部に所属していても、驚くほど成績が良い生徒もいます。本校はあくまで「文武両道」ですね。
日本の文化、自然体験を重んじる教育を行うことで、どのような効果があるのでしょうか。
高橋:“感性を磨く”とよくいわれますが、中学、高校という多感な年頃でしか得られないことがたくさんあります。
感性とは誰しも内側に培っているものですが、それを磨くための特効薬のようなものはなくて、これをやれば何か力がつく、というものはありません。
いろんな経験・体験が、生徒の内側で有機的に結びついて結果として力になります。
学校生活では授業による学習も大切ですが、それ以外にどんな体験をしたかがとても重要です。
本校の場合、たとえば自然の中で学び合いをする「自然体験教室」では、
中学1年のときに長野県信州にはる自然に囲まれたログハウスで集団生活を送ります。
中学2年では関東以北で一番高い2,600メートルある日光白根山に登ります。途中では危険と背中合わせの状況で崖を登り頂きをめざし、自然の怖さも感じながら、皆で助け合い、頂上へ到達した達成感を味わう体験をします。気候によっては頂上へいってもガスっていることもありますが、自然のなかでは当然そういうこともあるわけで、その年々の生徒たちの経験が、結果的には人生の判断基準をつくっていく営みにつながると思うんです。
中学3年では北海道のニセコで農業体験をやります。農家の方々と触れ合い農業体験をすることで、思いやりと感謝の気持ちを育みます。
私たちの生活は自然のなかで生きることから始まっています。
たとえば色のなまえは萌黄色、山吹色、桃色・・・など自然から来ているものが多いですよね。
本来私たちの文化は自然とともにあったんだということを生徒たちに実感してもらうには自然のなかに放って馴染むことが大切です。
そこで集団生活をして学び合いをすることが、社会の中で生活することにも役立つ、そう考えています。
その効果は卒業してしばらく経ってからでないとわかりません。
在学中は「なんでこんなにきつい思いをして山に登るんだろう」と感じながら登っていることでしょう。
ちょっと辛いかもしれないけど、そこでなければ学べないこともあるし、人生の中では思いもかけない辛い状況になることもある。
いろいろなことに対面し、判断しながら生きていくのが人間の姿。人生は判断の連続です。
この久我山での6年間で、判断の基準となる価値観の大きな木の根っこの部分をつくり、しっかりと根を張らせて送り出すのが私たちの役割だと思います。
そのためにも自然から学ぶことは大きい、ということです。
社会に出て壁にぶつかったときには「原点に帰れ」といわれますが、原点を探して振り返ったときに、やっぱり「久我山が原点だ」といえる大切な6年間になればと思うのです。
コロナウイルス感染拡大によって、体験・経験の機会が減ってしまいました。
高橋: 学校としては痛かったですね。そもそも、どんな体験・経験ができるかが学校のカラーであり、校風であり、学校らしさですから。
(2021年11月収録/#02『どう生きるのか、生徒に気づきの種を蒔いていく指導』に続く)