――オープンキャンパスへの参加や進路行事ができなかったことは、それほど大きなことなのでしょうか
本校では進路行事も「生徒自身で自由に選ぶ」を基本としています。
生徒一人ひとりが自分の将来、「先の先」を考える仕掛けを重視しており、例えば
職業ガイダンスや出張講義などを低学年時にしっかり設けて職業や学問との出会いをつくる、
そういう「息の長い指導」を行っています。
実施規模も、体育館で行うキャリアガイダンスなどは最小限とし、
できるだけ多くのプログラムを用意して生徒が選べるようにしています。
そういった体験や関わりの機会がなくなってしまったことは大きいと思います。
――「実体験を通して、自ら考えて選ぶ」ことの大切さとは何でしょうか
本校はかつて都立高校のなかでも「勉強の大泉、スポーツの石神井」と並んで「恋愛の井草」といわれました。
今ではそれを知らない生徒もいますが、私は機会があれば話すようにしています。
恋愛は、すべきときに、すべきこと。
そこから学ぶことも多い。
「相手を想う気持ち」はとても大切です。
そういった体験・経験は将来に性別、年齢を超えて、相手を大切にしながら
ともに何かを生み出していく行為につながっているはずです。
本校の生徒は、朝起きて何を着て学校に行くか、そこから考えて選ぶ「自律」と「経験」が始まっています。もちろん制服風の服を選ぶ生徒がいてもいい。
学校行事も生徒自身がつくりますから、本校にとっては生徒同士が関わり合う大切な経験の場です。
本校の卒業生は、著名で個性的な方も多いのですが、毎年生徒の前で、何人かの方に話していただいています。そこで共通しているのは、10代半ばに自分たちで考え、選び、つくり上げた本校での経験こそが現在の自分を形成している、そしてそのDNAを確実に受け継いでいってほしい、との呼びかけです。
――しかし、感染が拡大してしまうと、キャンパスでの交流はどうしても減ってしまいます
当初感染が拡大した2020年度は、中学校・高等学校は授業をリモートで行ったのちに、
夏ころに対面授業を復活させました。
しかし、多くの大学はオンラインの授業を継続しました。
大学は規模も大きいですし、感染拡大防止という事情があったとは思います。
しかし、卒業して行った生徒たちが本校に帰ってきたときに
「ほんの数日しかキャンパスに行けなかったことが残念」という声を聞くと、
学生がキャンパスでさまざまな人と出会い、いろいろな経験をしたいと望んでいることを積極的に読み取り、できるだけ丁寧に対応してほしかったと思います。
私が今、進路指導に携わる教員として思っているのは「大学がコロナ禍で学生にどう対応したか」という姿勢が大学を選ぶポイントになっていく、ということです。
その大学が考える社会的な責任とは、コロナウイルス感染拡大防止の責任か、それとも学生に対する責任なのか。学生の声をどう受け止めて、どのように判断し、教育を実施していったのか。
本校の生徒はもちろん、地方の高校生もそこに注目するのではないでしょうか。
各大学にはそれに応える情報を、データなどともに、わかりやすく発信していただくことを願っています。
(2021年4月取材)