コロナウイルス感染拡大によって、体験・経験の機会が減ってしまいました。
高橋: 学校としては痛かったですね。そもそも、どんな体験・経験ができるかが学校のカラーであり、校風であり、学校らしさですから。
本校はICT教育の先進校ではありませんでしたが、コロナ禍となり、必要に迫られ環境を一気に整備しました。
それにより授業はオンライン等で行いましたが、これまで盛んに行われていた部活動や学校行事は緊急事態宣言により制限されたり中止になったりと、最小限の学校生活しかできなくなりました。
しかしICT化が進んだことで、コロナ禍であってもできることが新たに見つかりました。
例えば女子部のCCクラスは、日本の文化を世界に発信し、他国の文化や伝統をお互い尊重しあえるグローバル人材の育成をめざすコースですが、コロナウイルスの感染拡大により留学生との交流ができなくなりました。
しかし、ネットを通してつながることで、何万キロも離れている海外の人と交流できました。
東アフリカのルワンダ、フィリピン、インド。さまざまな国や地域とネットを介してつながるプログラムが容易に行えるようになったことで、新たに学びが得られることがわかったのです。ある意味それは収穫といえます。
貴校は進学校ですが、ならではの経験や体験は、生徒の進路選びにどのようにつながっていくのでしょうか。
高橋:たとえば自然体験教室や文武両道が進路選びにどう役立つか。それは生徒のなかでどう消化されていくのかにもよりますが、やはりレジリエンス、つまり耐性、頑張れる力、起き上がる力は久我山の生徒は強いでしょう。
学校とは閉鎖的な空間になりがちです。
ですから、学校として一番大切なのは、外と断絶しないよう社会とつながる機会をどれだけ生徒に設けてあげられるかだと考えています。
その機会が生徒たちが自分の将来を切り開くきっかけ・気づきになります。
もちろん自然体験教室はそのひとつですし、また、講演会で先輩に来てもらって経験談を聞くことやキャリア教育のプログラムもきっかけになるでしょう。あるいは、英字新聞をみんなで作ろうというプログラムがあってそれに参加することで何か気づけるかもしれない。
ある中学の生徒は、授業中に先生が話したひとことがきっかけで、中学生のうちに恐竜の論文を書き、卒業後は北海道大学で恐竜の研究に携わることになりました。
また、小さい時からキリンが大好きだった女子生徒は、在校中に周囲から刺激を受けて東大へ進み、解剖学の研究室に入り、キリンの解剖に携わる「キリン博士」として有名になりました。2017年に博士課程を修了して、この4月からは東洋大学の助教になり社会で活躍しています。
このように、生徒のなかにいろんな種を蒔いている感じですね。
久我山にはさまざまな体験プログラムがありますが、それを自分の進路選択のチャンスと気づき、使うことができるかどうかは、結局その生徒が前向きに学校生活を送れるかどうか、です。
入学直後は久我山が第一志望ではなかった生徒は一定数いますが、久我山が好きになった、来てよかったと思うタイミングが早ければ、
学校から吸収できることがいっぱいあり、自分の進路が実現するのも早いと思います。
もちろん楽しく勉強してくれるといいですが、楽しいばっかりでもないでので、そこはやっぱり目標が見つかれば耐えられるし頑張れるはずです。
学校案内などを細かく読んでいくと「厳しさ」がある学校だということがわかります。
緒方:卒業生が学校に帰ってくると「当時は厳しかった」と思い出を語ることは多いです。実際に厳しい面もありますから。
ですが、今日では、時代とともに生徒もご家庭も変容し、社会全体も変わってきていますから、指導の根っこの部分は変わりませんが、場面や生徒の個性に応じて、手の差しのべかた、声の掛けかた、タイミングや回数などきめ細かく工夫しています。
本校には積極的な生徒は多いのですが、もちろん前向きな生徒ばかりではありません。
生徒自身がPDCAサイクルを意識して主体的に物事に取り組むことが望まれますから、生徒の状態を見ながら教師が変わるがわる声をかけていますね。
生徒とのやりとりには正解はありません。
本校らしさである、部活動でも勉強でも同じ釜の飯を食う大切さ、といいましょうか、師弟の関係で話し合うことを意識して、試行錯誤しながら指導しています。
コロナウイルス感染拡大が、進路選びや大学受験にどのように影響しているでしょうか。
高橋:進路選びや大学選びに大きな変化があったかというと、それほどないように感じます。
生徒たちは冷静です。安全志向が強くなったり、指定校推薦の希望者が増えたとか、そういう現象はほとんどないと思います。
ただ自宅学習が続きましたので、自分のペースをきちんと守り自身をコントロールできた生徒と、易きに流れてしまった生徒との差は出てきているようです。
数が多かった、ということはありませんが、二極化の傾向は出たかもしれません。学校に来てさえすればもう少しアドバイスできた、それが反省点です。
ですから、結局は「気づきと学力」だと思います。
自分と向き合えている生徒はモチベーションを保つことにつながって頑張れます。
「自分はいかなる人間か」がどれだけ分析・理解できているか。
「自分はこういうときは、こうなっちゃうから」がわかっていれば学校に来なくても勉強に取り組めます。
学校の行事やイベントは、生徒は自分ではそんなことは考えていませんが、
教育である以上、「自分とは何か」「自分はどう生きるか」に全てつながっていると気づけるか、だと思います。
生徒たちの学部学科選びに変化はありますか?
緒方: 生徒たちはストレスが溜まりそうな状況のなかで、上手に我慢をしていることが伝わってきます。
コロナ禍で特にどうという変化はないようですが、ただ今年度は医学部の志望は多いと感じます。コロナの影響でしょうか、医学科・看護学科など医療系全体が増えているように感じますね。
保護者の年齢層が、大学での学修を経験している世代になっています。保護者とのコミュニケーションに変化はありますか。
高橋:保護者の方々も大学受験は経験されていますが、今の入試は当時よりも多様化しています。
先日も保護者会の報告の会議をやったのですが、もっと保護者にダイレクトに伝えてほしいという声が強いんです。
(2021年11月収録/#03『自分の幸せと他人の幸せ、両方の実現をめざす人生を』に続く)