――先日、福岡県高等学校商業教育研究部会の学習会で講師をされていました。どのような内容だったのでしょうか
まずはじめに生徒を対象とした小論文講座を50分行い、その指導を先生方に見ていただきました。続いて先生方を対象に50分お話ししました。
ともにオンラインでやりました。
指導ついては、札幌で着任間もないころに、有名な先生の講座を受講したことがあるのですが「実際にどんな指導をしているのか」がイメージできなかったことがありました。
生徒には1回の講座で指導してどうにかなるものでもないのですが、
先生方に向けてのメッセージとして、私が実際にやっている講座を見ていただきました。
これまで小論文の指導をしてきたなかでの経験にもとづく細かいテクニック論なのですが、たとえば「添削はとにかく短く」。
もともと大学を考えていた子は別かもしれませんが、指導で大切なのは「続けたい」「明日もやりたい」って思えることです。
最初は2時間3時間かけて600字の文章書いてきた生徒に、添削で真っ赤っかにして、ここだめあそこだめって戻すとすぐ諦めることになってしまうので、「すごいね」って褒めることが大事という話だとか、「文章の質は、ある程度の文章量を書けば自然と上がってくるもの」、「添削は3分以内に終わらせる、でないと先生方も嫌になってしまう」などを、これまでの経験も踏まえてお伝えしました。
受講していただいた先生方からは「隠すことなくよく話していただけた」「なんとなく聞いたことはあったけど実際に講義を見てイメージできました」などの感想をいただけたのでホッとしています。
ほかには「結局は先生ががんばらないといけないっていう強烈なメッセージをいただきました」という声もありました。
そこだと思うんですよね。
小論文指導で国公立大学に生徒を合格させることができるのも。
まず勘違いされているのが、小論文は国語の先生の守備範囲だととらえられていること。国語の先生方は文章の指導にはこだわりますから何となくのイメージで「じゃ小論文は国語の先生ね」ってなっている学校が多いのではないでしょうか。
大学入試の小論文では、合否判定をする大学の先生方は、文章の巧みさよりも、視点や考え方、幅広い知識への関心などの方が大切です。教科としては「社会」「家庭科」の方が近いと思います。
実際には、小論文指導にチャレンジする先生が少ないのは、不得手に感じる人が多いからかもしれません。私も実は苦手に思っていました。
しかし、先生自身が汗を流すことが大切だと思うのです。
――校長をお引き受けになられて「これから」について教えてください
商業高校には大きな可能性がある反面、課題も多い。
そこで「真の商業高校教育を創造する」という方針を打ち出し、昔ながらの検定の取得をめざす教育が中心ではなく、今日の社会的なニーズに合致した教育をめざします。
たとえば社会経験を経た大人の方々にから「どんなことをもっと学びたかったか」というお話を伺うと、マーケティングとか、お金の増やし方とか守り方、具体的には受験に必要とされる5教科よりも、そういう生活に密着したことを学んで若いときからアンテナをはりたかった、という声をよく聞きます。
それができるのが商業高校だと思っています。
強みは、教師以外にも生徒たちにとっての先生になっていただける方が大勢いらっしゃること。とくに現場で本当の商売をされていた方の声は貴重です。
生きていくことで大事なのは価値を提供すること。
お金を稼ぐのは汚いことではなく、そこに向き合いどれだけの価値を提供して他人を巻き込んでいくかが問われます。個人だけでなくチーム、会社でもいい。
そういった力を身につけるためにはどんな時間の使い方をしたらいいのか、など経験にもとづく話しには得難いものがあります。
今年度になってからいろいろな方に学校に来ていただいて、先日は本校からも徒歩圏にある株式会社愛しとーとの岩本会長から、起業家塾ということで生徒に直接語りかけていただきました。
生徒は強制参加ではなくても60人くらい受講してくれました。
「みんな1年間の100億のお金を回すにはみんなどうやったらいい?」
「えー?」
「実際にやっているのがこの方です」と紹介したところ、生徒にとっては大きな刺激になったようで、固定ファンがついて毎週水曜日の放課後を楽しみにしている生徒も多いです。
ほかにも、美容業界の経営コンサルタントをお招きした講義では、「美容師は30代で9割が離職する」「ネイリストも3Dプリンタが出てきて食べていくのが難しくなっている」など、生徒たちはナマの情報に触れていました。
これから進路を決める生徒にとって、とても大切なお話をいただき感謝しています。
――商業高校は本来そういうプログラムができる学校ということでしょうか
そう思いますね。
たとえば普通科の高校でも探究重視となっていますが、大学受験を見据えたら、5教科を教えるだけで相当パンパンになってしまって、土曜日授業や7時間目の授業も当然必要になります。
商業高校はそこに縛られませんし、その分1・2年生にも「偏差値より経験値」ということでさまざまな経験を得ることができるプログラムをどんどん導入できます。
また、そういう新しい考え方にもとづく教育を大学にも信頼していただいて、女子商で3年間思い切って教育してもらった生徒を指定校推薦でぜひ入学させてほしい、などという関係を築いて行けたらとも思います。
また、大学進学ありきではなく、できれば企業から「女子商のファン」になっていただいて、大学を卒業していなくても女子商の卒業生を採用したい、といわれる教育をしていきたい。もちろんそれには長い時間が必要です。
とはいえ今は校長という立場になって、勤務時間を超過しないでできるだけ早く帰宅することを心がけています。私が早く帰らないと説得力がないので。
それでも小論文指導など生徒たちを応援していきたいので、iPadを買ってロイロノート(クラウド型授業支援アプリ)で添削してみようかと、また新しいチャレンジを考えています。
――本日はありがとうございました