――まず貴校の特色と、コロナ禍での印象的なできごとを教えてください
本校は「龍谷」の名の通り京都・西本願寺系の仏教系私立中学校・高等学校で、神戸市中央区に位置しています。
グローバル教育は熱心に行っており、30数年前に兵庫県下で一番早く英語コースを立ち上げました。今ではアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アイルランドなどへ年間25~26名を送り出しており、現地から留学生も受け入れています。
2020年2月ころからコロナ感染症が世界的に拡大しはじめ、海外の提携校に派遣した生徒たちも予定より早く帰国することとなりました。10カ月の予定を8カ月に短縮したり、出発して2カ月で帰国するなどの対応を取らざるを得ませんでした。
――国際系の学部・学科を志望する生徒たちへの影響はいかがでしょうか
コロナ感染症によって確かに現在のグローバル化が一瞬停滞するのかもしれません。しかし、全体を見るとグローバル化は時代の必然であり、むしろ停滞する今こそグローバルな人材が必要となるのではないでしょうか。世界の国々の往来がコロナ感染症によって一時的に分断されても、そのまま継続することはできませんから。
生徒にも保護者にもその旨を伝え、現状によって将来の進路選択を矮小化したり、萎縮する必要はないと指導しています。
――どのような声がありましたか
保護者からは「自分もそう考えていた」という声をいただくことが多いです。
たとえば国連が掲げるSDGsは、コロナだから延期しようということはなく、逆に加速しているのではないでしょうか。
また、コロナによって「自分のことだけでなく周りのことに目を向けて」「自分だけがよければいいというわけではない」という、人としてあるべき姿の大切さに地球規模で気付かされました。そして歴史を紐解くと、ペストやコレラなどの大規模な感染症流行後に世界が大きく動いたことは誰でも知っています。
――授業はどのように行われましたか
ICTを活用する授業を前倒しで導入し、リモートによるオンラインで授業を行いました。実は本校には「2年先に全生徒がiPadを持って、授業によってはオンラインで配信しよう」という構想がありました。
その前提となる仕組みについては3年ほど前から次期指導要領に対応した課題探求を取り入れたプログラムを導入していくという動きがはじまっていました。課題探求を進める上でICT環境は絶対に必要ですから。
そのような背景の中でICT化については、教員・保護者ともすでに関心が高くなっている状況でした。
コロナによって急遽対応を強いられましたが、土台はすでに整っていたので、4月から5月にかけてわずか1カ月で実現できました。
――課題探求のための環境が前倒しで整った、ということですね。具体的に教えてください
2年ほど前から、グローバル系のコースの生徒は3年間かけて全て英語で、調査、仮説、報告、プレゼンテーションまでを行う課題の探求に取り組んでいます。
長期留学で派遣する生徒も例外でなく、現地の学校で単位を取るだけでなく、常に自分の探求テーマを意識して学ぶよう指導しています。
国内で学ぶ生徒たちも同様で、例えば修学旅行では、単なる旅行でなく本当の意味での修学旅行になるよう、帰ってきた後にプレゼンテーション大会を実施し「私はこの1年間このテーマを探求した」と発表しています。
――自分の学習履歴が言葉にできるようになりますね
その通りです。その過程と成果を将来の進路選択に結びつけることが大きな狙いです。
大学入試における総合型選抜や学校推薦型選抜では、ペーパーテストの代わりに講義を受けて自分でメモをとって考察を組み立てレポートを課す入試も増えていますし、学力レベルの高い大学では発想する力、リサーチする力、エビデンスをもとに自分の思考を組み立てる力を問う入試に切り替わっています。
それは入学後の学び方、大学生活の過ごし方にもつながっています。
――そういった生徒たちの学びもコロナ禍によって足踏みしてしまったのでしょうか
そうならないよう教員研修を集中的に行い、オンライン授業もいろんな種類を駆使して実施し、教科や授業の内容によってさまざまな工夫をしました。
生徒個人単位ではオンデマンドとライブを使い分けたほか、グループ単位ではプラットホーム上に共有できるシートを用意し、共同して課題に取り組む授業もスタートさせました。
また、教師の個性も尊重するようにしました。チョークアンドトークで熱のこもった授業をする教師や、生徒一人ひとりにじっくり向き合う指導が得意なタイプなど教科によってもさまざまです。そういった教員の個性にもとづいてチャット機能を使ったリアルタイムな添削などを行った例もありました。
――進路指導についてはいかがでしょうか
実は、対面で実施できないことは大きな痛手でした。
進路意識を育てるということは、平たく言えば、生徒本人に内在しているが形になっていないものに新しい情報をどんどん与え形にしていき、それをアウトプットしてもらうこと。アウトプットのひとつを手がかりに、可能性の芽に対し、指導する側はさらに情報という栄養を与えます。
それを生徒自身が主体的に選ぶことで思いが「ことば」になっていく、これが過程だと考えています。
他校では「どこの大学に行きたいのか」とすぐに問いかけてしまうこともあるようですが、それでは生徒は進路選択ができないと思うのです。
(2020年11月取材/「#02 進路指導のあり方と、進路情報誌の関係とは」に続く)