――コロナ禍での進路指導はどのように行われたのでしょうか
実は、対面で実施できないことは大きな痛手でした。
進路意識を育てるということは、平たく言えば、生徒本人に内在しているが形になっていないものに新しい情報をどんどん与え形にしていき、それをアウトプットしてもらうこと。アウトプットのひとつを手がかりに、可能性の芽に対し、指導する側はさらに情報という栄養を与えます。
それを生徒自身が主体的に選ぶことで思いが「ことば」になっていく、これが過程だと考えています。
――わかりやすいですね
生徒が将来に対する自分の思いを「ことば」にできたとしても、志望理由として文字にならないこともあります。それは、内在の発見ができていないから。
ことばの範囲で「どこの大学に行きたいのか、将来どうしたいのか」と問いかける進路指導だと、本人が実現できそうな志望先を選ぶことになってしまいます。具体的な例だと「私は国家資格のどれかを狙って、専門学校で資格をとります」でいっちょあがりという進路選択となってしまう。
これは実は進路選択をしていないんですね。
――現実にありそうな話です
例えば「目標とする職業」など、わかりやすい材料を集めてことばにしただけではキャリアへの意識が育ちません。
進路意識を育てるために生徒とのやり取りは必ず必要なので、コロナ禍の中では可能な限り面談をして時間を懸命につくりました。
「なぜその職業か」。
その志望理由を書くには、志(こころざし)が必要です。志があれば努力できるし、入りやすい専門学校などのほかに入学努力なくしては実現しない大学で学ぶ理由も見えてくる。これにもとづいて大学の「建学の精神」を読めば、その大学を選ぶ根拠となり、ミスマッチは起こりにくくなります。
――しかし最近は検索すれば多くの情報が手に入ります。志(こころざし)が生徒の中に育まれにくいように思われます
確かに難しいと思います。志(こころざし)は検索してもどこにも載っていません。
「自分で組み立てて作るものだよ。作る材料は全部あなたの中にある」と話すと生徒はもちろん保護者も「自分で作っていいんですか?」とびっくりします。
自分の中に響く「こうしたい」という声、「これならできる」という自信。
そういった「志(こころざし)」が見えたときに、それを実現するにはどんな資格が要るのか、どんな職業を目標にすればいいのか、が後からついてきます。
――情報収集がネットで行われるようになって、進路情報誌などで大学や進路をじっくり調べる機会が減ったように見受けられます
進路選択の過程には、将来の志望が一見固まったようでも崩れ、また固めていく、という動きがあります。崩れたあとで、兆しはあるけれども具体化できない。自分はどこに向かっていくのか、きっかけがつかめない。
そういう状況のなかで進路情報誌は役に立ちます。
専門への関心から入ってもいいし、もちろん大学への憧れでもいい。
または社会貢献、世界貢献でもいいし、むしろそこを大切に育てたい。
それらは数値化できないものです。
これからの進路情報誌には、それを「見える化」することを期待したい。
生徒・保護者の願いは、今までもこれからも「いい大学を選びたい」ということです。
誰にとっていい大学か、何がいい大学か、その2つが大切です。
――数値化といえば進路情報誌には「ランキング」を切り口としたものも数多くありますが・・・
ランキングという指標はわかりやすくても大きな欠点があると私は考えています。
ランキングとは受験生の競争によって競り上がっていくもの。
競り上がらない大学は悪い大学なのか、ということになります。
日本の大学の約7割は学生数が1,000人未満といわれています。
これらは総合大学ではない小さい大学といえます。
ランキング上位の大学を見ると、規模が大きく学部数も多い大学ばかりで、総合大学が難易度ランキングをあげる上で有利であることがわかります。
現実では単科大学の方が優れている事項も当然あるわけです。
「そのような視点で大学を探してみてください」と保護者にも生徒にもお願いをしています。
具体的な探し方として「お父さんの職場の活躍している人はどの大学の出身者か聞いてください」という方法を勧めています。そうすると、生徒たちの格付けと全然違う大学名がどんどん挙がってくるんですね。
それをやらないで、高校生本人と母親だけで、大学の知名度とランキング、模試の結果だけを頼りに将来を選んでしまったら、それでは人生を誤ってしまうのではないでしょうか。
例えば関西地区なら、ランキングは低くても大阪電気通信大学は多くの有意な卒業生を輩出してきましたし、この近隣でも、非常に小規模ですけれども神戸海星女子学院大学は、ランキングでは評価されていなくても社会的には評価が高い大学です。
――いい大学とは数値では見えない、ということですね
父親の職場で活躍している現役社会人がどの大学の出身か、は一般社会からの大学評価でもあります。これは実社会で働いている人からしか見えませんし、地域などによっても当然異なります。
進路情報誌にはこのギャップを「見える化」していただければと思っています。
というのも、第3者の視点で「いい大学」という評価がないと、生徒たちは自分の感覚だけで決めることはできないのです。ランキングに入っていないこと、知名度が低いことが高校生の決心を削ぐ、情報の方が進路選択の邪魔をする、という現実があります。
本人がとてもいい大学だと感じているのに、ランクは低いし、親に反対されてしまっては、選ぶことはできません。
進路とは自分の中で夢としてもっているうちは美しい。それは自分の設計だからです。
ところが、家族や学校でことばにすると社会的な出来事になる。
後に引けなくなるからよく考えないといけないよ、と生徒には話しています。
それらも本校の進路指導だと考えています。
(2020年11月取材)