山田進太郎D&I財団

好きなことをやろう
返済なし、所得制限なし、
抽選制*の奨学金がめざす未来とは

*予備選考後に資格者多数の場合は抽選
インタビュー:2022年11月下旬

―――メルカリの創業者であり代表取締役CEOとして知られる山田進太郎氏がD&I※1を推進する財団を設立し、理系進路をめざす女子へ奨学金を「抽選で給付」したことは大きなニュースとなりました。

従来の給費制の奨学金は、成績優秀者、または経済的に厳しいご家庭の方のためのものがほとんどでしたので、中間層は利用するチャンスに恵まれていない状態でした。
抽選制としたことで話題を呼び、多くの方にご関心を持っていただくことができました。

―――これまでの、応募と選考について教えてください。

2021年7月に財団としての法人登記を行い、直後の8月に1回目の募集を開始しました。
対象は、中学3年生の女子、なかでも、高等専門学校、理数科、SSH(スーパーサイエンスハイスクール※2) という3つの学校を志望する方としました。

応募の書類は簡易化し、200文字の志望動機を添えて、Webだけで10分程度で簡単に、気軽に応募いただける形式としたこともあって、100名の定員のところ、全国津々浦々の方から767件のエントリーをいただきました。
2年目となる今年は、募集定員を中3が100名、高1(高2含む)が500人、合計600人に拡大しました。

―――200文字の志望動機の内容は?

STEM(理系)分野に進学したいと考えた理由や進学することで実現したい、あなたの夢やアクションプランを教えてください、という内容で200文字程度の自由作文をしてもらっています。
将来何がしたいのか明確になっていないフワッと将来を描いているような方、たとえば「理系の科目が好きだから」「そちらの方向に自分の未来がありそうだから」という動機の方や、なかには「家族から『女なんだから勉強なんて必要ない』といわれて悔しいからこの奨学金を通じて理系の道に進んで見返したい」という内容もありました。結果的にとても多種多様なバックグラウンドの方にご応募いただくことができました。

―――貴財団の資料では「日本は STEM学生の女性比率が OECDのなかでも最低であることに注目。このジェンダーギャップをなくすため、将来的には、STEM分野を選択する女性比率を2035 年までに OECDの平均である 28%まで伸ばしたい」とされています。そもそもSTEM学生の女性比率が低いことが、今日の私たちの生活にどのようなデメリットや不利益を生じさせているのでしょうか。

教育課程も入試も、ここ数年で大きく変わりつつあり、小学校ではプログラミングが、中学校では総合学習が、高校では探究学習の導入が進んでいます。これだけデジタルなものが身近になってきていますし、個人の興味関心も性別によらず多様化していくのは自然な流れだと思います。
一方、日本の大学のいわゆる理系の学部では、依然として女子はマイノリティです。
つい最近も機械工学を学ぶ学生と話したのですが、130人中10人しか女性がいないということでその学部に進むこと自体がとても勇気が必要なことだったり、入学してからも先輩のロールモデルがなかなか見つからなかったりなど、女性ならではの悩みを共有する相手が少ない。結果として「強い女性」を演じないとその学部でやっていけないなどのエピソードを話してくれました。
もし、ある女子生徒が将来社会でどんな役割を自分が果たしたいのかを考えたときにその学部で学びたいと思って進学しても、そういった環境に身をおく中で萎縮し、男子に遠慮して自分らしさを発揮できないということがあるのはとても残念で、もったいないことだと思います。

世界各国との比較において、STEM分野における女性の割合が低いことのほか、男女の賃金格差もG7の中で最も大きいというデータもあり、そのことが日本人の幸福感に影を落としているように見えます。

たとえば、夫婦間のコミュニケーションのあり方、働き方と少子化の関係についての指摘が出て久しいところですが、女性がしっかり稼ぎ、男性と同等に発言できることがその家庭のなかでのハッピーにつながる、といったことも影響としてはあるかと思います。

さらに、企業や団体の人材採用の現場では理系の素養を持った人材が不足していて、特に女性を採用したいという声がすごく上がっているという話を聞いています。これから社会でDX(デジタルトランスフォーメーション)が重視されれば、どんな仕事をするにあたってもデジタルやSTEMの素養が必要となるのは間違いないところです。

個人の視点では、女性ならではのライフイベント、たとえば出産をしてもそういったSTEMや理系の素養がある程度あれば職に就いていける可能性が高まるでしょう。
またマクロというか、大きい視点で見ていくと、よく言われていることではありますが、多様性があることによってイノベーションが生まれやすくなる、たとえば女性視点が入らないと偏った商品開発となり女性が不利益を被るということも、最近ではジェンダードイノベーション※3という文脈で言われるようになってきましたので、女性たちがSTEM分野で活躍していくことがこの先の未来をつくっていく、社会の進歩が実感できると感じているところです。

―――貴財団のプレスリリースにある「理系を選ばないのは、もったいない」という一節がとても印象的です。どうしたら現状を変えていけるのでしょうか。

今、日本では、女子の進路選択のデフォルトが文系となっているように思うのです。
日常の女子同士の会話で「理系に進むのって、すごいね」といった反応が出るのは、今はデフォルトが文系という意識があるからです。

私たちの財団のアンバサダー(理系の大学生メンバーで構成するチーム)のひとりに、日本に住んでいるインド人の子がいます。
彼女に聞いたら、インドのカルチャーでは文系に行くのがダサいという感覚らしいんですね。理系に行くことが当たり前で、彼女ももちろん理系なんですけど、「優秀ならば理系にいけ」みたいな、日本とは異なるカルチャーらしいんです。こんな風にカルチャーが異なれば個人の意識も影響を受けるわけなので、「理系を選ばないのは、もったいない」ということが日本社会に浸透していけば、次世代の個々人の選択も変わっていく可能性があると感じています。

―――中高生の進路選択意識として「文系進学は、文系で苦手科目があったとしても何とかなりそう。だけど理系だと1科目でも苦手があると苦労する」という先入観があるかもしれません。

そうだと思います。数学とか物理でつまずくのは女子が多い印象ですが、OECDの学習到達度調査の結果を見ると日本の中3の女子たちは算数の成績でみると、世界の中でも十分優秀なんです。でも、なんとなく苦手意識というか「すごく数学が得意でないと理系には進んではいけないんじゃないか」という先入観が根強くあるようです。

先日報道された「東京工業大学が入学試験で総合型・学校推薦型選抜で2024年度から143人の女子枠を導入」というニュースが話題になっています。

中・高の理科の先生と話をしていると、表現力があり、仮説を立てて課題解決的に考えていくことに積極的に取り組める女子は多いと聞くんですね。

男女のジェンダーギャップを是正していくという点では、大学入試の多様化は好ましいことだと思うのです。
もちろん大学での学修に必要な基礎学力がある前提ですが、本当に数学や物理がとても秀でている生徒だけが集まる場でいいのか、それとも多様性という意味で異なる入試で合格して表現力のある女子が入ってきた方が豊かな学びになるんじゃないか、みたいなところも含めて、東工大のニュースは、ひとつの希望だと思っていたところです。

―――東工大のような研究者を輩出する大学ばかりではなく、入学偏差値はそれほど高くなくても社会の基盤を技術で支える優秀な卒業生を送り出している工業大学も数多くあります。そういった大学が、女子が学びやすい環境を整え、また苦手科目があってもそれを補う仕組みを積極的に導入している印象があります。

やっぱり日本は学歴主義が強いように感じます。
先日、理系の大学生から話を聞いて残念だなと思ったのは、母校の高校の先生に「志望していた大学に合格しました」と報告したところ「お前の成績なら文系だったらもっと高いところを狙えたのに」と返されて、それでがっかりしちゃったっていう話を聞きました。

もちろん本人は学びたいことが学べて、その大学で満足しているのですが、何気ない一言が本人を傷つけてしまっている部分もあるかもしれないところが残念だというか・・・。

「大学の名前とかブランドじゃなくて、その大学で何を学べるのか、どんな専門を身につけて将来どうなりたいのかまでを描いて大学を選ぼう」とよくいわれますが、高校生はどうしても「そこがゴール」っていう感じに捉えてしまいがちなので、先々まで考えて、その大学で学んでどう成長するか、その「伸びしろ」みたいなところをぜひ見てほしいですね。

―――冒頭に理系に進むハードルのところで「保護者の不理解」という話題がありましたが、高校にも課題があるのでしょうか。

高校生たちが進路を選ぶ手がかりは、成績、職業や分野への興味関心、進路適性検査あたりだと思いますが、もっと多面的な「意思決定の大切さ」を学ぶ機会が必要なのかもしれません。アメリカの高校では「意思決定の仕方」を教えていて、そういった教材もたくさん開発されていると聞きます。

先生方はもちろん保護者の方も、もっとコーチング的なスキルがさらに高まるといいと思いますし、生徒の意思決定についても、もちろん保護者や先生の意見も聞きながら、自分の意見をもって臨むトレーニングの必要性も財団内でも話していたところでした。

また、中・高の理科の先生に女性が少ないことも、ロールモデルを見つけづらいという課題につながっているので、理系の女性の方にぜひ教員をめざしていただいて、教職員の女性割合がもう少し改善されていくことを、財団としては願っているところです。

―――理系女子のロールモデルの発信や浸透について、生徒本人たちに届いている手応えが乏しいという声が各所から聞こえてきます。

おっしゃる通りだと思います。
たくさんの方が制作されてる動画やキャリアインタビューのようなもの、対談記事みたいなものも含めて、理系女性が活躍している情報っていうのはもう巷に本当に溢れています。
ただ、それらがいわゆる「強いメディア」になってないのだと思います。

それぞれがそれぞれの文脈で予算を使って何か作って発信しているけれども、そこに振り向いてもらえない。というか、そこに届かないというのが課題だと思うので、やっぱり一緒になって強いメディアを作っていくことが課題だと思います。

―――株式会社アネスタが発行している高校生向けの進路情報誌「I→technology」は、その前身「Happy Technology」から続いて、850名のロールモデルを紹介してきました。

「I→technology」は隅から隅まで拝見しました。とても読み応えのある記事が多くて、私も勉強になりました。多くの中・高生たちに届いてほしいと本当に思います。

―――貴財団が掲げている「2035年度の大学入学者のうちSTEM分野の学部における女性比率を28%にする」という目標の実現はいかがでしょうか。

私たちだけで28%を達成することは難しいと思っていますが、ただその手応えは強く感じています。
若い世代はSDGsの目標の中でも、ジェンダーに関心を持つ人が多いと聞いています。
また、東工大の入試のほか、東大が「6年間で女性教員300人を新たに採用」など、そういった話題を耳にしない日がないというぐらいまでこのテーマは盛り上がってきていると思います。

私たちは、多くの大学や教育委員会、メディア、企業・団体などと、タッグを組んでインパクトを出していきたい。従来の財団とか奨学金のイメージが変わっていくようなきっかけを作れたらと思っています。

キャリアや意思決定に「正解」はない時代です。
向いてないとの思い込みや科目への苦手意識から理系進学をあきらめないでほしい。
私たちの奨学金を中・高生たちが有効な選択肢とすることで、好きな分野や学びたい領域を選択し、自分で夢をつかみ取ってほしいと願っています。

―――本日はありがとうございました。

※1
D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)
多様な人材を活かし、その能力が発揮できるようにする取り組みのこと。

※2
SSH(スーパーサイエンスハイスクール)
高等学校等において、先進的な理数教育を実施する取組等を活動や費用面等で支援する文部科学省による事業。

※3
ジェンダードイノベーション
科学・技術・政策などの領域において男女の性差分析を取り込むことで、新しい視点を見いだしイノベーションを創出すること。

公益財団法人 山田進太郎D&I財団
事務局長 
田中多恵
【財団プロフィール】
メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎氏が2021年に設立。
活動の目的は「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進することで、性別・年齢・人種・宗教などに関わらず誰でも自分の能力を発揮し、活躍できる社会の実現に寄与する」とし、まずは日本の理系のジェンダーギャップ改革に取り組む、とする。

https://www.shinfdn.org/

※2023年4月入学の募集は終了しました。2024年度の募集要項は変更となる場合があります。
公益財団法人 山田進太郎D&I財団
事務局長 
田中多恵
【財団プロフィール】
メルカリ代表取締役CEOの山田進太郎氏が2021年に設立。
活動の目的は「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を推進することで、性別・年齢・人種・宗教などに関わらず誰でも自分の能力を発揮し、活躍できる社会の実現に寄与する」とし、まずは日本の理系のジェンダーギャップ改革に取り組む、とする。

https://www.shinfdn.org/

※2023年4月入学の募集は終了しました。2024年度の募集要項は変更となる場合があります。

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