淑徳大学

淑徳大学 地域創生学部の挑戦#02
国内留学と自治体からの推薦を
組み合わせた入試を新たにスタート

地域の商人たちが商社を舞台に
地域の価値をつくってきた

—履修モデルとして「地域社会・文化モデル」「地域産業・企業モデル」を設けています。地域の産業、とくに「地域商社」に注目された点について教えてください。

地域は、日本の歴史のなかで誰がつくってきたのか。
実は「商人」がとても重要な役割を果たしています。

江戸時代の新田開発(公共事業)を考えてみますと、たとえばキャンパスに近い「三富新田」は当時の川越藩主・柳沢吉保による開発事業ですが享保の改革以降は、「町人請負新田」と呼ばれる資金力のある商人が開発する方法が主流になっています。地域創生がうまくいっているところは、やはり民間ががんばっています。
地域創生に必要な地域における商売、ビジネスを学ぶことを目的に、地域産業・企業モデルを設けています。

そのキーワードとして、「地域商社」や「ソーシャルビジネス」があります。

地元の資源に付加価値をつけて、誰に売るのか。地域内の取引だけではなく、海外や大都市といった地域外との取引が大きなポイントになります。そこを考え、売って、お金を稼いでいく。
それをしっかりと軌道に乗せて、お金を外から稼いでくる仕組みを整えて、利益を地域に行き渡らせる。それをできるのが地域商社です。

地域の資源を、お金で測れる「価値」に変えてお金を稼いでいく、ソーシャルビジネスのように、持続可能な形で地域の課題を解決していくビジネスを創造していく、場合によっては、そうした稼いだお金を税金や寄附などを通じて、お金や数字では測れない文化財などの価値をつくり守る。地域で構成される2つの価値を循環させ持続可能な仕組みにする。
日本では、商人たちもそういった役割を担ってきました。

ところで私の前任校は三重県の松阪市で、松阪商人、つまり伊勢商人の街です。たとえば三越も松阪の出です。そのなかのひとつの商家の旧家を見に行ったときに、「商売が永続していくためには、社会のことを忘れてはいけない」といった言葉が目に留まったことを覚えています。
近江商人の「三方よし」もそうなのですが、事業を通じた「社会貢献」をしっかりやってきた。これを現代的に再現をしていかないと、本当の地域創生できないだろうという思いがあります。

—1期生として入学者された方々の志望理由は如何でしたか。

「将来は地域に貢献したい」と、いろいろな活動に積極的に参加する問題意識が高い学生が集まりました。

そのなかで、公務員をめざしている学生は約3割です。警察官とか消防士になって地域の安全を守る仕事をしたいという学生もいます。

また、地域資源を活かした商品開発や、地方の町村の活性化に貢献するコンサルティングに関心がある、という学生や、地域の文化に興味があって実際に地元でお祭りや神楽の保存会に入っていて、大切に守っていくことをめざして入学した方もいます。
授業への参加も真剣で、ときには学生から「こういうことをやりたい」と提案もあり頼もしいですね。

 

在学中も地域につながり続け
卒業後は地域を創出する人材に

—2024年度から新しい入試として「地域創生人材育成入試」がスタートします。どのような入試でしょうか。

「国の方針・政策に則って、若者の地域への定住・移住を促す地域創生に、我々は本気で取り組む」という意気込みと姿勢を示すメッセージでもある新しい入試です。
地域創生学部で学んだのちに、自分が生まれ育った地域に還って、その地域の創生に寄与していく。
人材を還流することで、本学の学祖がとなえた「人間開発・社会開発」を具現化していくことを理念としています。

具体的には、地方自治体と連携し、地域の未来を担う人材を育てる「国内留学」の仕組みを導入した総合型選抜です。
入試には2つの内容があり「キャンパス地元型」は埼玉県三芳町、「国内留学型」は、茨城県笠間市、静岡県小山町・松崎町、三重県明和町からの推薦にもとづき、合格者に対する入学金の免除や生活の支援を行います。

内容としては単に奨学金出す話ではなく、徹底して4年間自分の生まれ育った地域につながってほしいと考えています。
たとえば、夏休みなど長期の休みや正課外のプログラムを通して、地元でもさまざまな活動をしたり、地元の企業や自治体でインターンシップに参加したりと、地元とつながりながら大学と行き来して成長してほしい。
卒業後の就職についても地元の自治体や商工会議所、産業界とも連携しながら支援していく。

この入学前から卒業後までを、一連のパッケージとすることで、我々は国の政策の一端を担いたい。
将来は生まれ育った地域に戻って頑張りたいと思っている学生が、しっかりと地域を背負える人材になっていただく教育という点では、プログラムとしては絶対の自信を持っています。

別の狙いとしては、学生たちがキャンパスと地元を行き来するときに、友だちを連れて行ってほしい。「自分の実家に泊まっていいよ」ということいなれば、本学部の学生が比較的安くいろいろな地方に行けることになります。現地で地域に関心がわいて「一緒にインターンしよう」「ボランティア活動をやろう」ということになれば、その学生の友だちは、少なくとも「関係人口」*4になります。
「この地域いいね、友だちもいるし」みたいな感じで就職が実現すれば、国の政策は進みますし、地域創生の輪を広げていくところまで狙っていける、という大胆な野心を持っている制度です。

—新入試の連携先であり、地域実習の舞台でもあるそれらの自治体について教えてください。

教育プログラムを中心とした責任あるパッケージとしていくためには、やはり各自治体と連携協定にもとづいて、一緒に進めていかなければ実現できません。

自治体によっては奨学金の卒業後の返還免除をやっていらっしゃいます。
淑徳大学としては「入学金の免除」を奨学金としていますが、学費については日本学生支援機構などで借りるといったところで、もし自治体の方で仮に半額を見ていただけるなら、学生本人や保証人となるご家族の方々のご負担は大きく軽減できます。

私がいろいろな地域でお聞きしているのは、金銭的、経済的に「首都圏の大学に送り出すのは厳しい」という声です。
協定を結んでいただいている自治体からもやはりそういう声があって「淑徳大学さん、いい学部つくったから地元の高校生にどんどん行ってほしいけれど、やはり経済的負担が重いよね」っていうところがありました。
その課題を解決するにはそこまでのパッケージが必要、ということで、まず協定を結んでいる自治体から始めているというところになります。

 

そのなかで、茨城県の笠間市は、淑徳大学の学祖の出身地です。我々としてはアイデンティティを持つ「原点の地」であると思っていますので、そこをしっかりやるのは使命といえます。
静岡県の小山町ですが、「金太郎の生誕の地」や「富士山頂のあるまち」として知られています。豊かな水資源を背景とした紡績業により発展した地域で、地域資源がしっかりと産業と文化に結び付いています。

静岡県の松崎町には、旧依田邸という元禄期の旧家が残されていますが、依田家は、山を活用した木炭生産や廻船で地域を支え、明治になると製糸業を中心とした殖産興業を行いました。ここでも地域資源と産業や文化がしっかりと結びついています。

三重県の明和町は、なんと言っても斎宮でしょう。また伊勢物語の舞台として知られています。伊勢物語には「みよし野」という地名が出てきますが、実は淑徳大学の埼玉キャンパスが位置する三芳町(みよしまち)は、この「みよし野」から取られていて、深いご縁を感じています。

地域創生は「いいところ」からではなく、むしろ逆境からどう逆転勝負をかけるか、が一番面白い。そういった地域から学生に入学していただいて、地元に戻って活躍していただきたいと思っています。

そして、埼玉県三芳町は、埼玉キャンパスがある地元になります。三富新田の名前は、『論語』の言葉が由来で、「豊かな村になるように」という願いが込められています。地域資源、産業、文化のつながりは、まさに地域創生の原点であると言えます。

実習は、埼玉キャンパスを中心に同心円的に広がっていくイメージです。また、東日本大震災の被災地域の地域創生にも取り組めたらと思っています。

—実践的な学びがスタートしていますが、4年後の卒業に向けて、学生の成長は如何でしょうか。

今1期生は地域実習を進めていますが、いろいろな経験を通して問題意識がさらに高まっている状態だと思います。

 

 

#3「『3つめのふるさと』との出会いがその後の人生をもっと豊かに」に続く。

*4)関係人口:移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々と多様に関わる人々のこと。

淑徳大学 地域創生学部
学部長
矢尾板俊平
淑徳大学コミュニティ政策学部教授を経て、2023年4月より、淑徳大学地域創生学部教授・学部長に就任。
現在、静岡県駿東郡小山町行政アドバイザー、千葉市こども基本条例検討委員会副委員長等を務める。静岡県榛原郡川根本町総合計画策定委員会委員長として、川根本町の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」・第2次総合計画の策定に関わる。主な著書に『地方創生の総合政策論』(勁草書房、2017年)がある。

淑徳大学 地域創生学部 地域創生学科
埼玉キャンパス(埼玉県入間郡三芳町)
入学定員:95名(2023年度)
https://www.shukutoku.ac.jp/extra/tiiki/
https://www.shukutoku.ac.jp

淑徳大学 地域創生学部
学部長
矢尾板俊平
淑徳大学コミュニティ政策学部教授を経て、2023年4月より、淑徳大学地域創生学部教授・学部長に就任。
現在、静岡県駿東郡小山町行政アドバイザー、千葉市こども基本条例検討委員会副委員長等を務める。静岡県榛原郡川根本町総合計画策定委員会委員長として、川根本町の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」・第2次総合計画の策定に関わる。主な著書に『地方創生の総合政策論』(勁草書房、2017年)がある。

淑徳大学 地域創生学部 地域創生学科
埼玉キャンパス(埼玉県入間郡三芳町)
入学定員:95名(2023年度)
https://www.shukutoku.ac.jp/extra/tiiki/
https://www.shukutoku.ac.jp

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