総合大学としての強みを生かす
――国がSTEAM教育※を提唱しているように、今、改めて芸術の重要性が叫ばれています。工学と芸術双方の学部を持つ九州産業大学には、大きなアドバンテージですね。
文系・理系を問わず、どんな領域でもそこに芸術の要素が加わることによって、生活や文化に豊かさや広がりをもたらします。
古い町並みや美術館に囲まれ、幼い頃から芸術に対する感性が育まれているヨーロッパに比べて、日本はまだまだ芸術が生活に浸透していません。その意味でも、本学が芸術学部を持つ意義は大きいし、美術館や柿右衛門様式窯など本学ならではの資産を、実際の教育にどう生かしていくかが重要です。既に、学生が企業や地域自治体とプロジェクトを組み、商品開発や技術開発に取り組む「KSUプロジェクト型教育」などにデザインの要素や思考が組み込まれている例は見られますが、今後はこうした動きをさらに推進していく必要があります。
デザインの世界はこの20年くらいの間にデジタル化が飛躍的に進んでいます。かつては各部署が独自のペースで行っていた作業が同時進行で進められるようになり、期間も短縮されるようになりました。まずプロトタイプが示され、その完成形に向けて全員が一斉に取り組む現在の体制では、文系・理系・芸術系それぞれの専門知識を持ち寄り、それを目的に向けて統合し、総合化する「文理芸融合」が生きてくるでしょう。また、そのことが、より重要になってきます。
それは教育現場も同じです。現在では文系の学生もイラストレーターやフォトショップなどの画像編集ソフトを自在に扱うようになっています。文理芸融合が進むことで、新たな価値が生み出される可能性は非常に高いでしょう。
文理芸融合を推し進めるには、文系も理系もデザインを学ぶ必要があるし、デザイン系も文化や数学など文系・理系の知識を身につける必要があります。その点で、文系・理系・芸術系、すべての学部を持つ本学の強みが発揮できると自負しています。
デザインを考えるに当たって最も重要なのは、その商品を使う人や使われる環境を総合的に先読みする力です。文系・理系の人が違う世界で学んだ経験を採り入れながら方向性を定めていく。そのためにはコミュニケーション力も重要で、日本語はもちろん、今後は諸外国の人々と共同でプロジェクトに取り組む機会も増えるので英語力も必要です。本学では、昨年度から始まった「グローバル・リーダーシップ・プログラム(GLP)」を筆頭に、現場で使える実践的な語学力育成に努めています。
高校現場の評価も高い育成型入試
――コロナ禍の中で、オンライン授業なども普通に行われるようになっていますね。
オンライン授業については、試行錯誤だった昨年度に比べて確実にバージョンアップしています。オンライン授業の改善に当たって、Man、Machine、Material、Methodという4つの「M」を提唱しました。
教える側の教員と受ける側の学生の意識向上を図り(Man)、オンライン授業に最もふさわしいソフトやカリキュラムに沿った授業を作成し、それをライブ配信する(Machine)。動画やスライド、テキストの中身を吟味し、内容をよりグレードアップさせたり(Material)、併せてオンライン授業に最適な話し方、授業の進め方などを工夫する(Method)といったことです。この4つをコンセプトに、今後もよりよい授業の構築に向けて取り組んでいきます。
――独自の入試制度である「総合型選抜 育成型」が注目されていますね。
これからは、大学の教育方針や目標とする人材育成にふさわしい学生を入学させることも重要です。育成型入試は、大学で学ぶ強い意欲を持ち、めざす将来像を明確に持つ学生を選抜する制度で、受験前から事前課題を与えるなど育成プログラムを課し、学びへの意欲や主体性、学部・学科とのマッチングなどを図っています。
育成型入試で入学した学生は学修へのモチベーションが高く、他の学生を引っ張っていく存在になってくれています。高校現場からの評価も高く、この入試をめざす生徒も年々増えているという声もいただいています。卒業して地元企業や自治体に就職し、地域を盛り上げてくれるようになってくれることを期待しています。
意欲あふれる学生がより増え、文理芸の融合が進むことで、本学がめざす地域や世界に貢献するグローバル総合大学としての姿がより明確になると思っています。
※STEAM教育=Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Art(芸術)、Mathematics(数学)を統合的に学習する教育
毎日新聞編集委員 中根正義氏取材。『I→technology(アイテクノロジー)』02号より転載。