日本大学

これから進路を選ぶ高校生女子に伝えたいこと#01
ビジネスはもちろん研究でも
「女性比率」が問われる時代に

女性が活躍する社会の実現に向けた取り組みが進むなか、理系のなかでもとくに工学系を選択する女子をどう増やすかが大きな課題になっています。
工学系の修学の現場は、女子学生にとって今どうなっているのかーーー。
理工系のほぼすべての分野を網羅する14学科を備え、大型の教育研究施設を有することで知られている日本大学理工学部の居駒知樹先生にお話を伺いました。

 

高校生女子が、物理・化学ではなく「生物」を履修するのは
工学系に進学する前提がないから

—– 近年、東京工業大学が143名の女子枠を2024年度の総合型・学校推薦型選抜から設けることが話題になっています。最近の高校生女子の理系選択の傾向をどう見ていますか。

まず前提として、理系進路を選ぶ母数が文系より少ない現実があります。一般的な公立高校だと理系は「多くて約3割」といわれ、そのなかの女子の人数は圧倒的に少なくなります。
さらに女子校の場合、志望の多くは医歯薬看護のほか生命、バイオ系で、そもそも工学系の指向がないんですね。その点は昔も今も変わっている感じはありません。

—– 工学系を選ぶ女子が増えない要因はどこにあるでしょうか。

千葉県内のすべての女子校を訪問してわかったのは、理系女子の多くが医や看護などを選ぶのは、カリキュラムと関係しているということ。国立大学へ進学するクラス以外は、多くの高校で物理・化学が履修できなくて、生物を選択しているのです。
それは工学系に進学する前提がほぼないということです。
もちろん高校のカラーによるところなのですが、やっぱり全体の雰囲気ってあると思うのです。たとえば、女子30名のクラスでほとんどの生徒が医療や生命を考えているところに、建築がまれにいる程度で、機械・電気はまずいない。それでは選びにくいでしょう。

とはいえ18歳人口はこれからさらに減少する時期に入り、本学部としてはやはり女子に受験していただく機会を増やしていかないと先がないと思っています。そのために、視線が医や看護に向いているところに、工学の魅力に気づいてもらうことが短期的には有効ですので、さまざまな工夫をしているところです。
たとえば進路ガイダンスや模擬授業では、生物の履修が多いところを踏まえて、本学部では生物科学や食品関連に取り組んでいる先生がいる物質応用化学科を積極的に案内しています。また「環境」というキーワードであれば、土木工学科では既存のイメージを払拭するため、自然環境を相手にモニタリングしたデータを見て分析している、などの話題を出します。

 

工学系を学んだ女性が少ない状況が
大きなリスクになる時代に

—–貴学部の 女子学生数の変化はいかがですか。

女子学生は「ずいぶん増えた」と実感しています。
女子率を見ると、2023年度は15〜16%なのですが、2014年が約12%でした。かつては土木、機械、電気などの学科は女子はほとんどいなかったところで、今では確実に入学者がいて、しかも増加傾向にあります。土木工学科では「土木女子の会」が結成され、先日キャンパスで見かけた土木工学科の測量実習では、女子が10人以上参加していました。

私は日本大学理工学部の海洋建築工学科の卒業生ですが、入学したのは1988年です。当時の入学者は157名中女子はわずか11名でした。
当時は女子の進学先として短大があり、優秀な女子学生の多くは文系を選ぶのが基本だったように思います。名門の女子短大を卒業して大手商社や金融系に就職することがあたりまえで「理系では女子は出世できない」といわれていましたから。

—— 最近では女性の管理職比率が国際市場における投資の指標に入るようになり、活躍する女性の人数が企業の生き残りに関わるようになってきました。

女性の比率に注目する動きは、研究費の獲得についても起こっています。
先日ある国際会議の誘致に何とか成功したのですが、コンペティションの最後の対抗相手はオランダ・ハーグでした。日本のプロポーザルの誘致委員会は当初は全員が男性で、関連する団体から「選考委員会は全員欧米系で、対抗のオランダには女性が3〜4名入っている。だからそこは選考に関わってくるはず」と指摘がありました。
最もなところで必死に探したのですが、私の分野で大学教員として頑張っている女性が本当に数人しかいないんですね。苦労のうえに何とか探し出して協力を依頼し、快く引き受けていただきました。
本来、誘致委員会には女性が入っていた方がよいのですが、人数は別にして「何パーセントを女性にする」という数値をあらかじめ明確にしないと実現しません。
それと同じ理由で大学の入学者も「女子枠」として数値目標としてつけないと達成できず、ドラスティックな変化は起こりません。

 

工学系を将来の選択肢に加える視点を
一般選抜で受験する高校生女子に備えてほしい

—— 採用する企業にしてみると、女性の管理職を増やすには女性の人数をまず増やす必要がありますから、「女子を採用したい」という声はとても大きくなっているのではないかと思います。

その通りです。大手ほど女子を採用したがっています。女性の採用が絶対的な命題なのですから。
就職については実際のところ、本学の14学科すべてで女子は男子よりも絶対に有利な状況です。同じ能力だったら女子が採用され、もっと言えば入社から20年後、間違いなく出世するでしょう。

ところが、オープンキャンパスで女子高校生の保護者の方々と面談すると「女子なのですが、理工系に入って就職ってできますか?」と本人の将来を心配されている声をよく聞きます。

—— 保護者が、女子の理工系からの就職に不安を感じているのはとても意外な印象です。企業の採用意欲の傾向が届いていないのでしょうか。

女子を積極的に採用したい多くの企業が、女性ならではのライフステージに応じた就労ができる環境づくりに取り組んでいますが、意外に周知されていないようです。オープンキャンパスでお会いする保護者のなかには、卒業生が就職する大手の建設会社や機械メーカーで働いているお父さんお母さんが結構いらっしゃるのですが・・・
ただ、ご説明すると安心して、総合型または学校推薦型選抜で受験していただいています。

そこで問題になるのは一般選抜による受験生です。本学の一般選抜で入学した方のなかで、オープンキャンパスに来ていない学生の割合は8割以上になります。
ですから一定以上の学力を備えた一般受験生となる高校3年生の女子の多くが、こういった情報をもたないまま、世間一般の印象だけで進路を決めていている可能性があります。
もちろん高校の先生方のアドバイスもあるとは思いますが、あらかじめ備えることができる情報の量にも限りがあると思います。
そういった状況を知らないままで後輩たちに受け継がれているのではないでしょうか。

—— 貴学部のHPなどを見ると女性の卒業生が数多くの著名企業に就職し、活躍していることがよくわかります。女子にとって貴学部の魅力はどういった点にあるのでしょうか。

教育研究施設が充実していること、そういった環境で4年間研究に打ち込めることは、卒業後のキャリアを考えると、男子以上に女子の方がメリットが多いのではないかと思います。そのことをオープンキャンパスに来ない一般選抜の受験生たちにどう伝えていくか、本当に悩ましいところです。
たとえば私が所属する海洋建築工学科でいえば、建築系のほか「海の土木」といわれる海洋構造物を扱う分野にも就職する女子も多いのです。本学の大きな構造試験装置を使って卒業研究や修士論文に取り組んだ経験を、オープンキャンパスなどのイベントを通して情報発信していますが、オープンキャンパスに来ない高校生、一般選抜の受験生にも伝えたいのです。

そして、本学部で学んだ強みを本当に実感できるのは、就職してからかもしれないし、または、結婚して出産し、その後職場に復帰してからかもしれません。
女子にとって本学部のキャンパスライフは不便なところはまったくなく、むしろ快適なはずです。研究環境も、1980年から90年代と比較すると相当きれいになっています。

—— もしよろしければ・・・先生の研究室の女子学生から直接お話を聞きしたく思います。充実した教育研究施設で研究に打ち込んでいる実感と将来について、ぜひ伺いたいのです。

「本格的な実験施設を使った研究の経験が一生涯の糧に これから進路を選ぶ高校生女子に伝えたいこと_後編」に続く。

日本大学理工学部  
教授
居駒知樹
1997年日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。
専門は海洋工学、浮体工学、波力発電、潮流発電。

日本大学理工学部
学科:土木工学科/交通システム工学科/建築学科/海洋建築工学科/まちづくり工学科/機械工学科/精密機械工学科/航空宇宙工学科/電気工学科/電子工学科/応用情報工学科/物質応用化学科/物理学科/数学科
キャンパス:船橋キャンパス (千葉県船橋市)/駿河台キャンパス(東京都千代田区)
入学定員:2,030名(2024年度)

https://www.cst.nihon-u.ac.jp/
日本大学理工学部  
教授
居駒知樹
1997年日本大学大学院理工学研究科博士後期課程修了。博士(工学)。
専門は海洋工学、浮体工学、波力発電、潮流発電。

日本大学理工学部
学科:土木工学科/交通システム工学科/建築学科/海洋建築工学科/まちづくり工学科/機械工学科/精密機械工学科/航空宇宙工学科/電気工学科/電子工学科/応用情報工学科/物質応用化学科/物理学科/数学科
キャンパス:船橋キャンパス (千葉県船橋市)/駿河台キャンパス(東京都千代田区)
入学定員:2,030名(2024年度)

https://www.cst.nihon-u.ac.jp/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です