東京工業大学
学長 益 一哉

大学トップインタビュー

東京工業大学と東京医科歯科大学が統合へ
新産業創出に向けて大胆な施策を
展開する東京工業大学の挑戦

2022年10月、東京工業大学は2024年度中を目途とした東京医科歯科大学との統合を発表。国内トップクラスの2つの国立大学が統合し、新たな教育研究拠点を創り上げていくというニュースに注目が集まりました。2016年度から大規模な教育改革を進めてきた東京工業大学ですが、東京医科歯科大学との統合により、より分野を超えた教育研究の連携が可能になります。さらに2024年度入学入試での大幅な「女子枠」設定など、日本社会の閉塞感を打ち破る新産業創出を目指し、先陣を切って改革に取り組んでいます。

専門分野の殻を破り、
新たな発想ができる人材を

本学が育成を目指すのは、「卓越した専門性」と「リーダーシップ」を併せ持つ人材です。その目標を達成するため、2016年度より国内で初めて学部と大学院を統合・再編しました。本学ではもともと大部分の学生が大学院に進学していたのですが、改革後は学士・修士・博士の各課程の教育カリキュラムが継ぎ目なく学修できるようになり、学士課程学生が自身の興味や関心に基づいて専門科目を幅広く受講したり、研究室での研究プロジェクトに参加することが可能になりました。教養教育も重視し、例えば入学直後の必修科目「東工大立志プロジェクト」は講演聴講とグループワークが半々で構成されており、自分が学びたい専門性を探りつつ、コミュニケーション・プレゼンテーションスキルを高めていきます。グループワークは専門の枠を超えてその後も継続し、3年次後期の「教養卒論」で長文のレポートにまとめます。「教養卒論」は毎年発表会があり、優秀作品の一部は学内限定で読めるようになっていますが、その内容は年々レベルアップしています。博士後期課程においては、専門性が異なる4名のグループを作り、SDGs等の社会課題について異分野の視点やアイデアや知識をぶつけ合い、その解決策を提案します。ここでは留学生や社会人経験者が加わっていますので、大きな化学反応が起きています。まさに専門の殻に閉じこもらない、本学が目指してきた異分野融合が進みつつあると感じます。

理工系×医療系の融合により
新産業創出を目指す

東京医科歯科大学との統合も、医療とサイエンスの枠を超えて議論し、互いに視野を拡げたうえで総合知に基づき未来を切り拓く高度専門人材を生み出すため。本学は理工学では国内最高レベルの研究教育機関ですが、医療系の学部はありません。そこで東工大のものづくりやシステム開発などの強みと、東京医科歯科大学の医療・ヘルスケアなどの強みを融合させることで、新しい時代の医工連携、さらにその次を実現できるのではないかと考えました。
振り返れば、日本のGDPは過去30年間伸び悩んできましたが、世界のGDPは伸びています。ただし、米国のGDPを見ても、GAFAMに代表されるITプラットフォーマ―やバイオ産業の影響により全体は伸びているものの、製造業は伸びていません。つまり、過去30年の日本の停滞は新しい産業を創出してこなかったことに尽きるのです。そうなってしまった原因はいろいろあるでしょうが、私たち大学にも起業マインドを持つ人材を意識して育成してこなかった責任があります。その点、本学と東京医科歯科大学の統合では「コンバージェンス・サイエンス」※の展開を目指しています。背水の陣の気持ちで臨むため、医工連携ひとつを取り上げても現時点では想像できないものが生み出される可能性があります。統合後にどのような研究ができるのか。新産業創出につながるチャレンジがどのように生まれていくのか。そこから生まれた新産業が日本社会の閉塞感をどのように打ち破っていくのか。今はまだ誰も想像できないことをやろうとしているのが今回の統合の目的です。

田町キャンパスを一新し、
スタートアップ支援の拠点に

統合が2024年度中に実現した場合、2025年4月に統合後の大学に多くの学生を迎え入れます。この新入生は現時点(2023年1月)での高校1年生に当たります。彼らは新大学で学び、修士課程を終えるのは2031年になります。本学では東京都心にある田町キャンパスの再開発計画も進めており、ちょうどその頃に36階建て複合ビルが田町キャンパスに完成する予定です。複合ビルの一部には本学の教育研究施設に加えて、スタートアップ用の施設も設けます。つまり、学生が新技術を利用する新規事業や新たなビジネスモデルを考案した場合、修士課程修了後に田町キャンパスの施設を利用することも可能です。田町キャンパスは田町駅に直結し羽田空港にもアクセスが良く、これからのビジネスは是非ともグローバル市場へ展開して行って欲しいですから、大いに活用していただきたいと考えています。

NTTUD・鹿島・JR東日本・東急不動産グループより提供
多様性のある環境を目指し、
2024入試からの女子枠を設定

また、2024年4月入学の入試から、総合型選抜と学校推薦型選抜において「女子枠」を設けたことも、ぜひ知っていただきたいところです。イノベーションを起こすには研究者の多様性が必要で、その1つが女性の活躍ですが、本学の学士課程の女子率は約13%。過去20年間、本学でも女子学生を増やすための活動にかなり力を入れてきたのですが、大きな効果は見られませんでした。その原因は社会的背景も含めてさまざまですが、「女性は理工系に向かない」というアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が1つの理由として挙げられます。この問題には社会全体で取り組まなければなりませんが、社会の変化を待っていては日本は世界に追いつくことができません。社会を変えるため大学にできる活動として、本学が先陣を切る形になりました。2024年4月入学者入試での総合型選抜試験での女子枠は、4学院(物質理工学院、情報理工学院、生命理工学院、環境・社会理工学院)で計58人。2025年4月入学者入試では理学院、工学院が85人の女子枠を導入し、計143人となります。女子枠を総合型選抜と学校推薦型選抜に導入するのは、基礎学力に加え、多様な能力を有する学生に本学に入学してもらいたいと考えたためです。なお、基礎学力も含めた総合的な評価が基準を満たす人が143人に達しないときは、一般入試選抜での合格枠を増やします。
これほどの規模の女子枠の設定は大学にとって大きな決断ですが、本学の試みをきっかけに、ぜひ理工系を志向し、チャレンジする女子が増えてくださることを願っています。

※歴史的に異なる複数の学問領域が融合し、新しい学問領域を生み出すことで未知の社会課題を発見し、解決していくアプローチ。

 

 


『I→technology(アイテクノロジー)』03号より転載。

Profileプロフィール
東京工業大学
学長
益 一哉
1954年生、兵庫県出身。1975年神戸高専卒業、同年東京工業大学工学部に編入学。
1982年同大学院博士課程(電子工学専攻)修了。工学博士。
東北大学助教授などを経て、2000年から東京工業大学精密工学研究所教授。
2016年科学技術創成研究院長、2018年から現職。
Profileプロフィール
東京工業大学
学長
益 一哉
1954年生、兵庫県出身。1975年神戸高専卒業、同年東京工業大学工学部に編入学。
1982年同大学院博士課程(電子工学専攻)修了。工学博士。
東北大学助教授などを経て、2000年から東京工業大学精密工学研究所教授。
2016年科学技術創成研究院長、2018年から現職。

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